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東京高等裁判所 昭和32年(う)41号 判決 1957年3月25日

控訴人 被告人 内山組木工合資会社 外一名

弁護人 大久保弘武

検察官 小山田寛直

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

被告会社及び被告人内山一一の弁護人大久保弘武の控訴理由は、末尾に添付してある同人作成の控訴趣意書記載のとおりであつて、これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

控訴趣意第二点に対する判断。

本件課税物件たるピアノの課税標準は、物品税法第三條第一項本文により製造場より移出する時の物品の価格であることは所論のとおりである。ところで本件犯行当時の物品税法施行規則第一一條(昭和二五年政令第三六〇号によりて改正されたもの)によれば、「物品税法第三條第一項本文ニ規定スル物品ノ価格ハ物品ノ製造者ガ当該物品ヲ通常ノ卸取引数量ニ依リ且通常ノ卸取引形態ニ依リ凡ユル購入者ニ対シテ自由ニ売却ノ為ニ提供シタル場合ニ於テ当該物品ノ対価トシテ当該物品ニ附スベキ価格ニ当該物品ノ容器又ハ包装ノ費用ヲ加ヘタル価格トス」と規定されてあつて、所論の運賃等が右価格のうちに含まれるかどうかの点であるが、その以前の同規則第一一條の規定(昭和二四年政令第八三号により改正されたもの)には、「物品税法第三條第一項本文ニ規定スル物品ノ価格ハ当該物品及其ノ容器又ハ包装ノ価格ニ荷造費、運送賃、保険料其ノ他ノ費用ヲ加エタル金額ニ依ル、但シ製造者ガ引取人ノ為ニ立替支払シタルコト明白ナル費用ハ之ヲ控除ス」とあり、現行同規則においては、第一一条の二に前示本件犯行当時の同規則第一一条と同趣旨の規定を置き、第一一条の六第一項において「第二種ノ物品ヲ製造場ヨリ移出スル場合ニ於テ其ノ運送賃(製造場ヨリ移出シタル後ノ運送ノ為ノ費用ヲ謂ヒ包装材料費荷造費及保険料ヲ含ム以下同ジ)ヲ当該物品ノ対価ト区別シテ取引スルトキハ当該運送賃ニ相当スル金額ハ当該物品ノ課税価格ニ算入セズ」とあり、その第二項には、「第二種ノ物品ヲ製造場ヨリ移出スル場合ニ於テ前項ノ規定ニ該当セザルトキト雖モ運送賃ノ受領者ノ発スル書類及当該物品ノ製造者ノ記録帳簿ニ依リテ大蔵大臣ノ定ムル所ニ依リ当該物品ニ係ル運送賃ノ額トシテ明ラカニ計算シ得ル金額ニ付テハ之ヲ当該物品ノ課税価格ニ算入セズ」とあり、さらにその第三項には、「前項ノ規定ハ第二種ノ物品ノ製造者大蔵大臣ノ定ムル所ニ依リ当該物品ニ係ル運送賃ノ額ノ計算ニ関スル明細書ヲ所轄税務署ニ提出シタル場合ニ限リ之ヲ適用ス」と規定されているのであつて、右各規定の趣旨をその改正の経過に従つて検討してみると、いわゆる通常の卸取引形態における移出価格中には、運送賃は内包されて価格の一部を形成するものとみるべく、その課税標準価格から控除さるべきものではないのであるが、製造者がそれを引取人のため立替支払したことが明白な場合(昭和二四年政令第八三号)あるいは運送賃を当該物品の対価と区別して取引する場合(現行規則第一一条の六、第一項)には、いずれも運送賃は価格の一部を形成しないが故に、これを当該物品の課税価格には算入しないこととし、前掲現行規則第一一条の六、第二項のごとくその第一項に該当せず、すなわち運送賃が当該物品の対価と区分されず対価の一部を形成する場合であつても、本来は控除しないのであるが、当該物品に係る運送賃として明らかに計算し得る金額については、同条の六の第三項の場合に限りとくにこれを当該物品の課税価格に算入しない旨を規定したものである。換言すれば、通常の卸取引形態においては運送賃は移出価格の一部を形成するものであるとの原則は貫かれているのであつて、よしや本件犯行当時の規則において運送賃につき明定されていないからといつて、運送賃は移出価格中には含まず控除さるべきであるとする法意ではないと解すべきである。されば、その当時における税務官署の取扱としても、国税庁長官より国税局長に対する通達(昭和二六年八月一五日「物品税の課税標準価格の取扱について」と題する通達及び昭和二七年一一月二五日「物品税法の取扱について」と題する通達)において、「製造者がその製造場から移出する物品の荷造運賃等に要する費用については、一取引ごとにその都度実際に要する費用と物品の価格とを別個に計算しているものに限りこれを課税標準価格に算入しないこと」とあり、これにもとずき拠理されていたものであつて前掲現行規則第一一条の六、第一項は右通達の趣旨を法文化したとみるべきである。しからば本件については、関係買受人の証言、供述調書の記載、押収の領収書及び物品税製品受払帳の記載などによつて明らかなごとく、原判示物品の運送賃等はすべて売主たる被告会社の負担とする旨の約定の下に移出されていて、一取引ごとにその都度実際に運賃等に要する費用と物品の価格とを別個に計算していたものとはとうてい認むべくもないものであるから、所論運送賃等を控除しないで課税標準価格を認定した原判決はまことに正当であつて、この点についても審理不尽による事実誤認の廉はなく、所論は排斥するの外なく、該論旨は理由なきものである。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中野保雄 判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道)

弁護人大久保弘武の控訴趣意

第二点原判決は審理の不尽の為結局事実の認定を誤まつた違法があり破棄すべきものである。

本件の物品税の対象となつているピアノについては物品税法第三条第一項に規定せられる如く、物品税の課税標準価格は製造場より移出する時の価格となつている。即ち、移出価格が課税標準価格となつているのであり、製造業者が遠隔地の買受人の処迄運搬して販売した際の荷造り運賃等は当然販売価格より控除した上で課税標準価格を算定すべきである。

本件のピアノの販売については被告人がピアノを販売した相手方は東京、大阪等の遠隔地であり其の販売価格は荷造費運賃等を含めたいわゆる持込価格である。従つて、比の様な際に於いては物品税を算出する課税標準価格は比の実際に被告人が負担した荷造り運賃費を控除した上で算定すべきであるにかかわらず原判決は比の荷造り運賃費の控除をなすことなくして慢然と持込価格を基準として移出価格を算定した違法があり、破棄すべきものと信じます。被告人に於いて本件のピアノを東京、大阪等に持込んで販売する際にはピアノ一台につき荷造り運賃費が三千円乃至五千円かかつておりこれを被告人に於いて負担しているのであるからして当然この費用は控除した上で物品税の算出をすべきである。

(その他控訴趣意は省略する。)

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